2008-08

Single's Review(11) 「クリスマス・イブ」(山下達郎 Released:1983年)

クリスマス・イブクリスマス・イブ
(2003/11/12)
山下達郎

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☆ 作品は作者のものだが,歌はみんなのものである。そういう歌のことを「流行歌」といい,戦時色が強くなった時代に「歌謡曲」と言い改めさせられた。大瀧詠一氏によれば,本人が望むと望まないとにかかわらず,山下達郎はこの作品「クリスマス・イブ」の作者として日本ポップス史に永遠に名を残すことになったとのことであるが,あたし流に言い換えるならば,この曲は,日本の「流行歌」の系譜の最後に登場した「歌」として名を残すことになるだろう。

☆ 昔,一年ほど前このウエブログで書いたような個人的な体験もあって,この曲について書くと「渋谷陽一がレッド・ゼップについて語ったり」「今野雄二がブライアン・フェリーについて語ったり」するのと良く似たことになりかねない(今,何となく誰かに睨みつけられたような気がしたが,気のせいかな^^;)。それでも,この曲について語る時は,まず山下達郎1983年作品『Melodies』から最後にシングル・カットされた作品として語るべきなのだろうと思う。

☆ 今,話したこの曲の最初のシングル・カットは12インチ・ピクチャー盤だ。雪の結晶が写っている美しい盤だが,もともと限定生産だったからヒット・チャートには縁がなかった。あくまでも,企画モノとしての扱いだった。だからおそらく定価1,000円の塩ビ盤に相当なプレミアムがついているだろう(達郎夫妻も数枚しか所蔵していないはず)。

☆ ところでこの曲は,天気予報で歌詞が始まる変わった曲でもある(笑)。基本的にはトーチ・ソング(失恋の歌)であり,先週紹介したEpo「12月のエイプリル・フール」(1985年)の元歌であることは言うまでもない。そしてこの曲を有名にしたのは「ひとりア・カペラ」を交えた彼が駆使した和声の力だ。90年代に達郎自身が話しているが,この曲のコーラス部分を作る時に彼が意識したのは小田和正(Off Course)のコーラス・ワークであり「そのアンチとして作った」とハッキリ語っている。

☆ どういうことかと言えば,オフコースのコーラスも基本はユニゾンだが,最も強い音である小田のヴォーカルを中心に音を重ね,重ねた音の強さでその印象を深めるのがオフコース流のコーラス・ワークなのだ。季節的に合いそうな作品を引き合いに出すと「さよなら」が分かりやすいかもしれない。余談ながら鈴木康博がそんな小田に愛想を尽かせるのは,やむを得なかったかもしれない。オフコースの解体を丹念に追った山際淳司が急逝していなかったら,この辺の話をもっと訊いてみたかった。

☆ いずれにしても,そのメイン・パートが他を圧倒するコーラス・スタイルは洗練の極致ではあったが,ドゥ・ワップやカリフォルニアのガレージ・サウンドで青春を過ごした山下にとって,極めて違和感が高いコーラスであっただろう。変な喩えだが,合唱コンクールの最優秀校のような違和感だったのかもしれない。

☆ しかしそこからが山下の凄いところで,和声の引用をパッヒェルベルのカノンに求めた。

◇ウィキペディアの解説
・ヨハン・パッヘルベル(Johann Pachelbel, 1653年9月1日 - 1706年3月3日)は、ドイツのバロック音楽期の作曲家である。
・ニュルンベルクに生まれ、同地に没した。ウィーン、アイゼナハ、エアフルト、シュトゥットガルト、ゴータ、ニュルンベルクでオルガニストを務めた。
・ヨハン・セバスティアン・バッハの父、ヨハン・アンブロジウス・バッハと親交があり、またバッハの長兄ヨハン・クリストフ・バッハの師でもあった。「パッヘルベル形式」といわれるオルガンコラールはバッハに影響を与えた。
・作品には上記のオルガン・コラールのほか、合唱曲、三重奏、合奏ソナタ、組曲などがある。 現在「パッヘルベルのカノン」として親しまれる曲は、「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグニ長調」の第1曲である。

☆ バロックなのである。小田和正がポピュラー音楽の原点に戻って組み立てた強い和声に対抗するのに,近代和声の原型に戻って解を探したところが彼の最大の功績であり,この曲に恐ろしいパワーを与えた原因だ。この和声は一音一音が独立しているが,全体として調和の取れた一つの大きな様式の中に収まっている。それは近代的,あるいは当時流行の先端だったパワー・バラード風の「強い和声」に対する鮮やかな異議申し立てであり,その成果があまりにも美事であったから,最初の異議申し立てもどこかに消えてしまった。いま聴いてみても,この強くて一音一音がしっかり独立した和声は,街角にしんしんと雪が降り積もっていく情景を実に鮮やかに描き出している。その様子は有名なカノンを用いた間奏よりも,曲のコーダの部分で最も強く表れている。達郎がそこまで意識したかどうか分からないが,コーダの部分のコーラスが意味するのは「さよなら」の最後の歌詞そのものであり,「心の中に降り積もる雪」を歌詞ではなく、コーラスで表現し尽くすことで,この勝負は山下達郎の完勝に終わる。

☆ ここまでが「作品」としての「クリスマス・イブ」の話である。そこから先の話,この「歌」が自らの力で多くの人の耳に留まり,その歌詞の「物語」と曲の和声の魅力が何回ものタイアップ広告とシングル・カットを呼び,その結果,最初にシングルカットされて10年ほどの月日を経てヒット・チャートの頂点に輝くという,典型的なエヴァーグリーン(=永遠のヒット曲)の資格を持つに至ったのは,この「歌」自身の「物語」に他ならない。かつての古賀メロディや服部メロディのように,一つの「作品」は,ひとつの「歌」として,ひとつの「時代」のアイコンとなった。それは「作品」自体に恐るべき魅力があったからでもあるが,それ以上にその「歌」に力があったからである。そしてこの「歌」の後も,時代を描き,切り裂き,表した「作品」は,さまざまなプロダクツとしてわれわれの前を通り過ぎていったが,こうした「歌」は,もう二度と出ることはなかった。ここに日本の「流行歌」は静かにその幕を閉じ,J-POPという絵付きやリズム優先の「プロダクツ」がそれに置き換わったのである。

Season's Greetings

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  • アーティスト: 山下達郎
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1999/06/02
  • メディア: CD

テーマ:Single's Review - ジャンル:音楽

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