2017-08

「Flashdance...what a feeling」 (Irene Cara 1983年4月11日)


初出:2006年5月28日




Casablanca 811440
Composed By Irene Cara/Keith Forsey/Giorgio Moroder
Chart-topped from 05/28 to 07/02/1983 (6weeks)



☆ アイリーン・キャラというシンガーは,出世作の「Fame」にしてもこの曲にしても,こぶしが利いた歌い方をする。そして高音域では少しハスキーがかっているが,非常にウエットな声質で日本人だったら間違いなく演歌歌手で食べていけたと思うが(笑),その彼女が1980年代を象徴するこの曲を歌ったのは非常に意義深い気がする。

☆ オリジナル・サウンドトラック『フラッシュダンス』は,無名の新人女優ジェニファー・ビールズを一躍有名にし(その反動が10年近くあったのは,彼女にとっては不幸だったかもしれないが),この曲とMichael Sembello(彼もまたこの曲でワン・ヒット・ワンダーの仲間入りをする事になるが)「Maniac」の2曲の全米No.1ヒットを生み,アルバムは米国だけで200万枚を突破するチャートバスター・アルバムとなった。この年に『Thriller』(Micheal Jackson)という20世紀最大のモンスターアルバムがリリースされなかったら,名実共に1983年を代表する作品となり,ミュンヘン・ディスコから始まった作曲家ジョルジオ・モロダーにとっても誇らしい記念碑となった作品でもある。

☆ モロダーらしいキーボード主体の作品で,既にテクノポップの方法論を吸収し「打ち込み」で作られているのはさすがだ。このシングルは,その打ち込みで作った音とヴォーカル(メインとバック)だけのシンプルな構成の作品なのに,そういうサウンド・プロダクトの面からも80年代のメイン・ストリームを切り開いたものと言って良いと思う。短くも大仰なイントロに続いて,アイリーンがゆっくり歌いだすところは,ミュージカル的な歌唱だ。そしてキーボードに導かれるようにピッチを上げていくヴォーカルが滑り出していくこの感覚が当時は新鮮だったし,今聴いても感慨を持ってしまう。

☆ 『Flashdance』に続く道のりは『Saturday Night Fever』から始まっている。当然,そこには「スタジオ45」に象徴されるディスコ音楽の白人(嗜好)化があり,全ての道程はマイケル・ジャクソンとマドンナに収斂してしまうのが1980年代前半の結論でもあるのだが,それはステージ・ダンサーという職業が陽の当る存在となる過程でもあった。更に言えばジェーン・フォンダのワークアウトが象徴する「健康の世代」がこれを強烈にバックアップしていた。ウォーターゲートとヴェトナム敗戦で,米国のリーダーシップは国の内外から打撃を受け,米国自体がリカヴァーすべき時期だった。ソ連はアフガニスタン出兵という致命的な過ちを犯しながらもまだその指導力は健在で,レーガンが米ソの対立軸で国の威信を取り戻そうとしたことは戦略的には間違っていなかった。

☆ しかし,米国内では既に厭戦気分は極端な個人主義(=ミニマリズム)へ変貌しつつあった。エリート達,特に70年代にその地位を勝ち得た都会の高学歴の女性達は「自分探し」の罠に簡単に落ちていた。そして自分探しのある面での象徴がワークアウトやエアロビクスによる「健全な自分」の回復であり,そうした時代のトレンドにジェニファー・ビールズの演じたヒロインの姿はジャスト・フィットしたのである。


☆ この映画でデンゼル・ワシントンが探していた「女」を演じているのが12年後のジェニファー・ビールズだ。

2017年7月26日追記
☆ この原稿は最初のシングル・レビューとして書いたもので,書いた時にはまあ会心作と思っていたが殆ど反響もなかった(自爆)。今さらだが「フラッシュダンス」的なものの原型は「ロッキー」に見られ,主人公がロッキーほど崩れた場所からの復活ではない点は「サタデー・ナイト・フィーバー」に近く,でも自分の夢を実現するというストーリーは鉄板シナリオと言えなくもない。ただこのサントラ(既述のようにジョルジオ・モロダーが係わっている)とデヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』(こちらはナイル・ロジャースが係わっている)とマイケル・ジャクソンの『スリラー』(こっちはクインシー・ジョーンズが係わっている)で,1980年代はポスト・ディスコのダンス音楽の時代であることが見えてきたような気がする。

☆ その一方にラップ/ヒップ・ホップの興隆があるのだが,これについてぼくは語る資格がない。



☆ 今さらだけど付記しておくが,ジェニファー・ビールズが掴んだばかりの栄冠を失った理由は,肝心のダンスシーンが吹き替えだったことがバレたことだった。確かにそれはうまくなかったが,その後復活したことを見ても分かるように女優としての素質に問題があったわけではなかった。こういうスティグマは一度押されると長年の重荷になる傾向があるが,本当にそれでいいのかなという思いもある。
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コメント

何度も見た「ロッキー」(1のみですが)と違い、「フラッシュダンス」は、地上波を流して見たくらいで、細かいストーリーは把握していませんが、アメリカンドリームのサクセスストーリーという同じ括りに思っています。

「サタデイナイトフィーバー」の続編で、前作の青春路線から、ほろ苦くなった「ステインアライブ」は、「フラッシュダンス」の成功を受けて作ったのか、たまたま公開時期が数ヶ月遅れたのか、フィル・コリンズがテーマ曲を歌った「ホワイトナイツ」は、ダンス路線に便乗した気もします。

マニアックは、ライトハンドのギターソロが格好良く、マイケルセンベロは実力派のスタジオミュージシャンだと言われましたが、誰のアルバムに参加していて、その後もどうなったのか、本当、一発屋でした。

ものすごい勘違いですが、オリビア・ニュートン・ジョンは、グリースでなく、ステインアライブに出て、フィジカルを歌っていたと、ごっちゃになっていました。(フォーク系の歌姫がショートカットでマッチョ風になったのはショックでしたが、ルカサーのギターソロは気に入ってました。)

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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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