2017-08

「日曜日はストレンジャー」 (石野真子 1979年1月25日)


本日TEXT ONLY



☆ 石野真子の4作目のシングル(作詩:阿久悠 / 作・編曲:筒美京平)である。この作品はアイドル・ポップスの作り方の一例として非常に分かりやすいと思う。まず曲から。この曲のWikipediaにも記載があるようにイントロの前半はフォー・トップスの「It's the Same Old Song(1965年7月9日)」の引用だが,Mighty Clouds of Joyの「タイム」(のベースライン。似た発想は「ヒゲダンス」だな)も同じラインを使っている。要はこのピョンピョン飛び跳ねる音が石野のフレッシュ感(まだ2年目で人気も確立しつつある段階)に合っているという判断があったのだと思う。ここで筒美京平が考えたことは「石野真子に60年代モータウンのポップな部分と当時の流行であるディスコビートをかけ合わせたらどうなるか」ということだったと思う。

☆ フォー・トップスの引用はこの時代に少し見られ(山下達郎は怒っていたようだが)同じ筒美京平作・編曲の田原俊彦「原宿キッス」(1982年5月8日)のイントロは「I Can't Help Myself (Sugar Pie Honey Bunch)」のベースラインをお手本にしている(どこかの女の子のライターがこの曲名に気付かず「モータウンの引用だ」と書いていて=ぼくも見たことがある=どうもそれを山下達郎が見て,自分の番組でとんでもないと怒っていたのだが(理由は不明。小杉理宇造氏のラインから近藤真彦に曲を提供したことと何か関係があったのかもしれないが,考え過ぎだろうか=爆=))。

☆ ここでのポイントはモータウンの二番煎じにしないこと。実際に80年代に近づくにつれて60年代のモータウン楽曲のリバイバルが米英で起きている(ストーンズのように延々と取りあげていたバンドは別にしても)。ポピュラー音楽における60年代モータウンの価値が単なる黒人のティーンエイジャーや黒人音楽好きの白人ティーンエイジャーのためだけのものでなかったことが,この再評価で分かってくるのだが,この時代はその一つ前。だからドクター・ドラゴン(筒美京平)は,数年前から取り組んでいたディスコ風楽曲のアーキテクチャをここに持ち込んだ。そのことは「陽性」のはつらつとしたイメージで石野真子を売り「直し」たかった事務所の意向にも合っていたと思う(「陽性」を強調したかったのは,たぶん先行する榊原郁恵と大場久美子に追いつき,マイナーコードのラインを選んだ石川ひとみに対抗するため)。

☆ で,阿久悠の歌詩。これはタイトルからも明白なようにビリー・ジョエル「The Stranger(1978年3月21日=日本で発売。オリコン最高位2位と英語版Wikipediaに記載)」の引用。大昔このタイトルを面白おかしく解釈した投書を見たことがあるが,阿久悠はビリーの歌詩をちゃんと読み込んでおり,歌詩のテーマである「変身願望」だけをいかにも女の子然としていた石野真子に今で言うコスプレ的に(本当はこの言葉を使うことに若干の抵抗がある)試してみたのである。

☆ 手練れ(てだれ)が「(女性アイドルが歌うような)女の子の歌詩」を書く時には,その曲を聴いている(当時はテレビだけでなくラジオでシングルがかかることもプロモーションだった)ターゲットの諸君にどれだけ「深読みをさせるか」ということを考え抜いている。もちろんそんな曲ばかりではないが,おそらく松本隆は全く意識せずに松田聖子「秘密の花園」の歌詩を書いたかといえば,そんなことはないだろうと思ってしまう(爆)。

☆ 石野真子の1年目の3曲はどちらかといえば「後からついてきます」的な大人し目の(でも案外意志は強そうな)女の子を描いていた。しかしそのラインは少女主義時代(ぼくの「独自研究」 具体的には1978・9年)の石川ひとみともろに被ってしまう。ここで方向転換するなら石野の個性が伸ばせると判断して当然だと思う(実際にそれは成功して「あの時点までは」ちゃんとトップアイドルの近くまで行った)。阿久悠が書いたのは「私だって実はすごいんです」ということをさりげなく石野にアピールさせることであり,それはディスコの様式を借りて彼女の陽性の部分を全開にさせた筒美京平の曲作りの方向とも一致している。

☆ とまあ,ウダウダ書いてきて結論は何かというと,アイドルポップスにとって必要なことはその歌手にとってどういうラインをメインストリームに据えるかということ。いつもいつも書いて恐縮だがダイアナ・ロスが不承不承歌った「愛はどこへ行ったの?」や「ベイビー・ラブ」でスプリームス(シュープリームス)が突然トップアイドルに躍り出ても「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ」を貰うまでは彼女は内心半信半疑だったに違いない。あの曲の譜面を貰って初めてダイアナは自分がスターの座に届いたことを実感したのだと思う。そこまで来れば彼女はそれ以降にどんな曲(例えば「ラブ・チャイルド」みたいな曲)が来ても何とも思わなかっただろう。(アイドル)歌手をメインストリームに据えるとは実にそういうことなのである。



☆ これ書いた後にフォー・トップスの「It's the Same Old Song」を聴いていたら,大滝(詠一)さんがこの曲の間奏からのアイディアを「バチュラー・ガール」(稲垣潤一/大滝詠一)に引用しているのに気付いた。今更ながら。。。



2017年5月1日追記

☆ ところで,この曲はどうだろう?XTCの1979年4月発売(英国)のシングル「Life Begins At The Hop」。コリン・モールディング作のこの曲はXTCのサード・アルバム『Drums & Wires』の先行シングルだったが,LP時代の英国盤には収録されず,米国盤に収録された。ザ・カーナルことコリンの曲だから彼がベースを弾いているのだが,このベースライン。どうだろ?

Life Begins At The Hop (Colin Moulding)



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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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