2017-06

後期ROXY MUSIC三部作=3= "AVALON"



初出:2006年5月5日
☆ 『Avalon』というアルバムを聴いて最初に気付くことは,リズムキレのよさだ。特に,リマスターした盤はドラムスやパーカッションが立ち上がってくるのが目に見えるほどである。これは前作『Flesh+Blood』で明らかになった音の奔流とでもいえる傾向にアクセントを加えることで,より全体を引き立たせようという意図があったのだろう。

☆ 『Avalon』は,ロキシー・ミュージックという異形のバンドの到達した場所である。だから,そのことを以て彼らの最高傑作と評されることに激しく抵抗するファンがいてもやむを得ないと思う。そこに広がる音は悪く言えばイーズィ・リスニングと聴きまごうばかりのスムーズィな音である。しかし,『Flesh+Blood』の時にも書いたように,フェリーマンザネラマッケイの三人はあたかもドナルド・フェイゲンウォルター・ベッカーが行った作業に似たことを企てていた。

☆ 『Avalon』が制作される前にスティーリー・ダンは,苦心惨憺の産物『Gaucho』を発表し,事実上の解散に陥った。更にジョン・レノンが凶銃に斃れたことに衝撃を受けたフェリーは,ジョンのソロ時代の作品をカヴァーしたロキシー・ミュージック名義のシングル "Jealous Guy" をリリース。実に皮肉なことにロキシー・ミュージック全英No.1ヒットとなった。これら一連の出来事が『Avalon』の前奏曲になったと決めつける訳にはいかないが,前史として軽視できないと思う。

☆ アルバムのオープニングを飾るのは "More Than This"。このキャッチーな作品は,アルバムからの先行シングルとしてカットされ,全英チャートを賑わせた。しかし,この曲に「夜に抱かれて」などというおぞましい邦題をつけたレコード会社の担当はいったい何を考えていたのか。小一時間問い詰めるどころか,小突き回したい(爆笑)。

☆ "More Than This"はイントロの強いアタックから引っ張っていく強さを感じる。『Flesh+Blood』の出だしが10カウント・アップだったのと比較しても,彼らの,自ら創り出す音に対する自信の深さを感じる。この曲ではフェリーの軽くファルセットをかけた声すら,ひとつのインストゥルメント(楽器)として,全体の中に溶け込んでいる。ブライアン・フェリーという人は,基本的にロキシー・ミュージックフロント・マンであり続けた。それはイーノ追い出した一件からも容易に理解されるが,その彼がここに来て,自らの声すら全体役割一部にする。つまり一歩退いた位置から全体の音作りを行っている。これがロキシー・ミュージックの辿り着いた地点なのだ。

☆ "More Than This"にはそんな特徴があるにも拘らず,作品全体のスムーズな流れと,アクセントをつけるパーカッション立って聴こえるようなミックス(ボブ・クリアマウンテン!)の力量のせいで,全体の幕開けを告げる役割を果たしている。その中でコーダ部分で潮が引くようにフェイド・アウトさせるフェリーキーボードが奏でる主旋律に,このアルバム全体テーマ暗喩として窺うことが出来る。

☆ 2曲目"The Space Between"は,ロキシー流ファンク。前作『Flesh+Blood』でも,ニュー・ロマンティックスなどの当時のイギリスの音楽シーンにおける新しい傾向とシンクロしていることを指摘したが,やはりここでも相互作用のようなものを感じる。直接,この作品が影響を与えたとは思わないが,例えばレベル42に代表されるブリティッシュ・ファンクや,ニュー・ロマンティックスでは特にスパンダー・バレエの諸作品(『True』,それ以上に『Parade』)に影響を与えていると思う。興味深いのは,このファンクの傾向といえば翌年(83年)に,デヴィッド・ボウイナイル・ロジャースと組んで『Let's Dance』を成功させたことにも繋がっているようにも感じる。

☆ 3曲目 "Avalon" は,アルバムのタイトル曲だが,ここではブラック・コンテンポラリーの色合いすら感じさせる。ここでも隅々まで行き渡る音の奥行きが美しい。初期のロキシーはアバンギャルドである代わりに音的には隙間の多いものだった。それに対して,この曲は隙間を丁寧に音とリズムで埋め尽くしている。埋め尽くしてはいるが華美でもなく,必要なもの必要なところ綺麗はまっている感じがする。

☆ 4曲目 "India" は,"Avalon"と次の "While My Heart Is Still Beating" を繫ぐブリッジ。単純なメロディーが続くが,そのまま5曲目 "While My Heart Is Still Beating" のイントロの役割を果たしている。

☆ 5曲目 "While My Heart Is Still Beating" はロキシー・ミュージックらしい哀調が冴えるナンバー。でもその哀調は例えば "A Song For Europe" の重々しさとは異なり,必要な音が必要なところに整理されている感じがする。LP時代はここまでがA面

☆ 6曲目 "The Main Thing" は,この後のフェリーのソロにも引き継がれるような曲。こういうリズムを彼は重視するようになっていく。しかしリズムを中心としたこの曲は,ロキシーの諸作品の中でも異彩を放っている。7曲目 "Take A Chance With Me" は,前の曲とうって変わって,神秘的インタールードの後に,短いイントロから入っていく。 "The Main Thing" のリズム重視のムードをいったん冷まして,ニュートラルまでもっていったと判断したところから, "Take A Chance With Me" が始まるという構成になっている。前後の曲の違いを念頭において,単純に繫ぐのではなく,一息入れることがアルバム全体の流れを損なわないようにするという効果となっている。

☆ 8曲目 "To Turn You On"。このあたりからアルバムは終点に向けて走り出す。その構成は『Abbey Road』 のB面後半のメドレーにも似ている。ロキシーがそのことを意識していたかどうかは分からない。しかし,アルバムとそれを携えたツアーをもってロキシー・ミュージックはその歴史を終えたことを思うと,このあたりまで来るとちょっとした感慨を覚えてしまう。

☆ 余談だけど,今でも幸運だったと思うのは,『Avalon』のツアーを見ること(しかもかなり前の方の真ん中の席で!)が出来たことだ。ステージの袖で今からステージに出るぞというフェリーさんの姿を垣間見ることが出来たのは実に幸運だった。それにしてもロキシーの三人は揃って背が高くて,近くで見ると気圧される感じがしたのも懐かしい。

☆ 9曲目 "True To Life" 。フェリーのソロ作からのシングル "Slave To Love" にも一脈通ずる作品だ。しかし,あとでこの "Slave To Love" が,後日㌧でもない映画(= "9 1/2Weeks"1986年)で使われるとはフェリーさんも努々(ゆめゆめ)思わなかったことだろう(爆)。"To Turn You On"ともども余韻強い曲で,ロキシー・ミュージックというバンドが辿り着いた高みをここに示している。音が,ヴォーカルが,パーカッションが,ギターが,キーボードが,ベースが,アレンジが,そしてマスタリングが,全てがその場所を指し示している。

☆ 10曲目 "Tara" は,余韻のような短いインストゥルメンタル。この音が消えていく時,ロキシー・ミュージックは改めてその終焉を告げる。後に残る寄せて返す波の音は,伝説の地 Avalonに我々が降り立ったことを示している。ここにブライアン・フェリーの強い個性が作り出した音の世界はいったんの大団円を迎えるのである。

後期ロキシー・ミュージックとは何だったのか。口の悪い評論家は,フェリーのソロ・アクトを隠蔽したものだという。残念ながらそれは全くの見当はずれだ。ロキシー・ミュージックという名の下に集ったフェリーマンザネラマッケイの三人が改めて彼らの音楽を再構成し,さらに磨きをかけ,この時代で最も洗練された音楽に仕立て上げたのだ。それは一聴すると単なるスムーズ・ミュージックのように聴こえるかもしれない。しかし,仕立ての良い服も着こなしてみなければその真の価値が分からないように,後期ロキシー・ミュージックが発表した三枚のアルバム聴き込むほどにその価値輝かせることに気付くだろう。おためごかしなダンディズムなんて薄っぺらな評価ではなく,最高作品を追い求めたミュージシャンたち静かな熱情をほんの少しでも拙文から感じてもらえれば嬉しく思う。


2017年5月5日付記
More than This (Bryan Ferry)

最高位 ノルウェー2位,全英・全仏・全豪・アイルランド・スイス6位,スペイン10位,ニュージーランド12位,ベルギー13位,スウェーデン17位,イタリア21位,ドイツ24位

☆ 今さらながら,アヴァロンというコンセプトを考えた時,ロキシー・ミュージックが残した航跡を辿る旅だったのかなあという気がしている。アヴァロンが行き着く先であったかどうかは分からない。ただロキシーのデビュー盤のあの「やんちゃぶり」はここには何処にもない。それは大人になったなどという月並みな言葉ではない。また11年前に既に確認しているようにこのグループが音を通じて映像を表現することに成功していたのだろうと思えるのだ。

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コメント

はじめまして

はじめまして
同じFC2ブログということもあり、何度か訪問させていただいております。

ロキシーミュージックは、まずは、スコーピオンズと双璧を成すきわどいジャケットが友人たちの話題になり名前を知りました。

ブライアン・フェリーが、ジャズロックからロックンロールへ転身したクリス・スペディングを従えて来日した際、ヤングミュージックショーで見て、フィル・マンザネラも同行しているから、ロキシーもこんな音かなと思っていると、渋谷陽一の番組でBBCライブがオンエアされ、けっこう違うなという印象でした。

アメリカでなくイギリスの音ですが、もっとヨーロッパ的な音というのか、例えとしてどうか、クリムゾン、イエスに対するユーロプログレという対比に感じました。

アヴァロンは、さらに空間的な音作りで、これまた変な例えですが、ポリスのサウンドにMTV前夜のシンセサウンドが加わったみたいな印象です。

これからもよろしくお願いします。

こめんとありがとうございました

> はじめまして
> 同じFC2ブログということもあり、何度か訪問させていただいております。
>
> ロキシーミュージックは、まずは、スコーピオンズと双璧を成すきわどいジャケットが友人たちの話題になり名前を知りました。

☆ コメントありがとうございます。言うまでもないですが『カントリー・ライフ』と『ヴァージン・キラー』ですね(^^;)。

> ブライアン・フェリーが、ジャズロックからロックンロールへ転身したクリス・スペディングを従えて来日した際、ヤングミュージックショーで見て、フィル・マンザネラも同行しているから、ロキシーもこんな音かなと思っていると、渋谷陽一の番組でBBCライブがオンエアされ、けっこう違うなという印象でした。
>
> アメリカでなくイギリスの音ですが、もっとヨーロッパ的な音というのか、例えとしてどうか、クリムゾン、イエスに対するユーロプログレという対比に感じました。
>
> アヴァロンは、さらに空間的な音作りで、これまた変な例えですが、ポリスのサウンドにMTV前夜のシンセサウンドが加わったみたいな印象です。

☆ ロキシー・ミュージックって,なんだかんだ言っても統一されたトーンが根底にあった感じがします。『マニフェスト!』以降のロキシーの音は,純粋に音作りという点では時期的にも『幻想の摩天楼』~『ガウチョ』のスティーリー・ダンと双璧だったと思いますが,『アヴァロン』の音環境(変な造語ですが)に一番近かったのは『ザ・ガーデン』の頃のジョン・フォックスだったような気もします(かなり好みが入ってます^^;)。

> これからもよろしくお願いします。


☆ これをご縁に今後ともよろしくお願いします_m(..)m_。

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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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