2017-06

後期ROXY MUSIC三部作=2= "FLESH+BLOOD"



初出:2006年5月4日

☆ 『FLESH+BLOOD』は『Manifesto』の翌年に発表された作品であるのに,前作に見られた過去のロキシー・ミュージックを彷彿とさせるものが綺麗さっぱり取り払われていた。そこにある隅々まで磨き上げられた音は,あたかもドナルド・フェイゲンウォルター・ベッカーが『Aja』で体現した音がコンコルドに乗って大西洋を越えていったかのような感がある。それはかつてこのアルバムのレビューを書いた今野雄二が評したように,最初の "In the Midnight Hour" のイントロでフェリーが "1","2"...とテンカウントする間に催眠状態に誘い込むかのようでもある(この評は今野が書いたロキシーのレビュー内容で唯一ぼくが評価に値すると思う評である)。

(注記)実際は逆で,フェリーとマンザネラとマッケイがニューヨーク/パワーステーションでボブ・クリアマウンテンと創りあげたと言った方が正解だろう。

☆ オープニングから劇場をイメージさせる"In the Midnight Hour"は,ご存知ウイルソン・ピケットスティーブ・クロッパーの作品。今年64歳で亡くなったピケットの精力的な歌とは対照的に,テンカウントのイントロで始まるこの曲はゆったりした河のように流れ,その音は屹立した世界を見せる。ここではニューウエイブの中から生まれてきた耽美主義・審美主義的な傾向にロキシーなりの反応を見せていることが分かる。もともとロキシー・ミュージックというバンドはイーノが離れた後,フェリーの美的感覚が強くカラーとして出ていた。しかし,再結成後のロキシーは,その基本的なトーン維持したまま,よりポップな審美主義を意識していたように感じる。

80年代初めからムーブメントになりつつあったニュー・ロマンティックスは,いわば1周遅れてきたグラムであり(その時期,本当にネオ・グラムというムーブメントもあった。前者は商業的に成功し,後者バウハウスとかニュアンスはかなり異なるがジョイ・ディヴィジョンとか=は,90年代のグランジ・ロックまで影響を及ぼしている),ロキシー・ミュージック復活時機を得たものといえた。しかし,それは結果論に過ぎず,彼らはあくまでも彼らのスタンスで彼らのフィールドに立っていた。それはこの曲を含むカヴァー曲が単純なカヴァーに留まらず,ロキシー・ミュージックというフィルターを通して彼らなりに昇華した音として目の前に出されていることからも分かるだろう。

☆ そのことは2曲目 "Oh Yeah" で明らかになる。1曲目の速度を上げることも落とすこともなく,緩やかに流れていく。それは当時やたらと言われたソフィスティケイテッドという表現がピッタリだったし,まがうことなきAORそのものだ。この評価は,ロキシーのファン,AORファンのいずれをも貶めるものでは無い。それは研ぎ澄まされ,奥行きを持ち,ポール・キャラックの印象的なストリングスをバック・トーンにする音を通じてひとつの世界が,物語が出来上がっているということなのだ。

☆ このアルバムの特徴は,だいたい3,4分の曲が多く極端に長い曲が無い。これはシングル・カットを意識したのかもしれない。3曲目 "Same Old Scene" はシングルカットされたが,後からサウンドトラックに収録されて,再度シングルカットされた1曲だと思う。また,前作『Manifesto』と比べると,歌詞が長くなっている気がする。このように,このアルバムでは物語を紡ぎ出そうというアプローチが感じられ,それはロキシーとしての最後の作品となった『Avalon』を経て『Boys And Girls』,『ベイト・ノワール』と続く80年代のブライアン・フェリーのソロ活動へ引き継がれていく。

☆ 4曲目 "Flesh and Blood" アルバムのタイトル曲は重厚な感じがロキシーらしさを感じさせるが,ここでもアラン・スペナーのよく歌うベースが,以前とは違う印象を与えている。LP時代のA面最後の曲でもある5曲目 "My Only Love" も "Same Old Scene" の系統にある美しく印象的な曲。ここでは,アンディ・ニューマークがドラムスを叩き,アラン・シュワルツバーグサイモン・フィリップスがパーカッションとしてクレジットされている。豪華すぎるが,どういうことなのか(^^;)。。。この後数年間は,フェリーといえばこんな感じの曲というイメージがある。

☆ 6曲目 "Over You" はアルバムからシングル・カットされた実にポップでわかりやすい曲。印象的なキーボードはフェリー自身による。アルバム全体に流れるゆったりしたテンポがここでも曲のアクセントとなっているが,強いリズムがそれを感じさせない。この辺のアクセントの取り方はボブ・クリアマウンテンのエンジニアリングの力量だろう。そしてフェイドアウト/フェイドインで次の7曲目 "Eight Miles High(霧の8マイル)" に続く構成も秀逸だ。

☆ その "Eight Miles High" は,Byrds(バーズ)のカヴァー。サイケデリックの黎明期の名曲としても有名なこの曲を,オリジナルとは違った角度でミステリアスなムードだけをうまく残しながら手堅く料理している。この辺は "In the Midnight Hour" の処理にも似ていて,単なるカヴァーではなく,その素材にロキシー・ミュージックというスパイスを利かせながら,ニューベル・キュイジーヌに仕上げてしまったという感じだ。

☆ 8曲目 "Rain,Rain,Rain" は,やっぱりロキシー・ミュージックにはこんな曲調の曲が必ず1曲は入るよねというタイプの曲(笑)。ちょっとシンコペートした裏打ちリズムだが,ロキシー・ミュージック的な。。。という比喩しか思いつかないほど彼らのオリジナリティを感じる。9曲目 "No Strange Delight" もそう。ただ,曲で語られる物語は別として,やはりアルバム全体の流れがこのあたりで少々途切れてしまう感じがする。単独ではそんなに悪い曲では無いのだけど,最初から聴いてくるとどうしても途切れた感じがする。この辺を更に突き詰めてシームレスにしてしまったのが『Avalon』なのだが。。。

☆ その "No Strange Delight" も重たい渾沌の余韻を振り切るように,最後の曲10曲目 "Running Wild" が始まる。 "Running Wild" は,『FLESH+BLOOD』というアルバムを締める曲というだけでなく,これから先のブライアン・フェリーの音の傾向を示唆した作品である。そこに現れた緩やか穏やかな音の流れ,すみずみまで研ぎ澄まされた音への感覚,リズムとメロディが一体に調和する,まさにひとつの美意識で築きあげた世界がそこにある。ある意味,桃源郷であり,現実を遠く忘れさせる力のある物でもあるが,あくまでも有限作り物としての運命からは逃れられない世界が,そこにある。

☆ たぶん我々はその世界の端っこに足を踏み入れ,しばしのまどろみを得るのだろう。癒しということばで軽々しくは言いたくないが,邯鄲の夢のようなまどろみを与え,ロキシー・ミュージックは,最後の地へと向かう。


2017年5月4日付記
In the Midnight Hour (Wilson Pickett, Steve Cropper)


☆ ウイルソン・ピケットの「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」がビルボードR&BシングルのNo.1に輝いたのは1965年8月7日。前後のNo.1ソングはフォー・トップス「アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ」とジェームズ・ブラウン「パパズ・ガット・ア・ブランニュー・バッグ(パパのニューバッグ)」である。ロキシーのカヴァーはそれから15年を経たものである。11年前にこの曲を評した「ポップな審美主義」は今見ても的を外してはいないと思う。

☆ 審美主義やその言葉自体の持つ重さ(重苦しさ)はポップ・アートの世界では脱構築されていると思う。そういうモノが出てきた時には「アニメとどこが違うのか」みたいな現代美術とアニメーションの双方に対して失礼なアナクロニズムに属する評価もしばしば見られたようだが,今ではそれが開き直って「審美主義がポップでなくて何のさ」みたいな傾向にあるのはご愛嬌だと思う。たぶんその変化の過程にはディジタル化という要素が大きかったと思う。アンディー・ウォーホールや細野晴臣の頭の中にしかなかったものが,今では簡単にコピーされ(あるいはヴォーカロイドさん達の姿を借りて)世界中に果てしなくばら撒かれているのである。これは「ある種の審美主義の終わり」であり,今野雄二がそれに殉じたくなった気も分からないではない。でもぼくたちはだらしなく(あるいは不甲斐なく)その現実を是として受け入れるしかなく,そんな立場から1980年には少し早すぎたフェリーさんの「ポップな審美主義」を自家薬籠中の物として何食わぬ顔で消費し尽くしているのである。


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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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