2017-08

「Sweet Love」 (Anita Baker 1986年8月)


初出:2008年1月9日
RaptureRapture
(1994/06/17)
Anita Baker

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☆ 1980年代のスウィート・ソウルで一番好きな曲。もっともアニタ・ベイカーのヴォーカルはただ甘いだけでなく,野太いというか迫力がある。実際に歌ってみればわかるが(笑),この曲は相当な難曲で,おそろしく微妙なバランス感覚が求められる。非常にテクニカルなAメロを持ち,サビのところはシャウトに近い思い切った歌い方を要求される。だけどアニタの力強い歌唱はそんなことを一切感じさせず,典型的なスウィート・ソウルの甘さが溢れ出してくる。

☆ この曲で彼女は,その声質を駆使して溢れ出しそうな感情の迸(ほとばし)りを歌い切っているのだが,こういう歌い方は一歩間違えると自己満足というか「のど自慢」と化してしまうのだが(どこのマイケル・ボルトンとは言わん(笑)),この歌には「感情の寸止め」とでも言えばいいのか,ナチュラルに抑制がかかっていて,その絶妙のバランスがこの曲を80年代を代表する名作に押し上げている。

☆ さっき野太いと書いたが,ただ声(低音域)が太いのではなく,まるで建物の基礎のように彼女の「歌」をしっかり支えている。言うならば頑丈なヴォーカルなのだ。この曲を聴いていてイメージしたのは絶頂期の八代亜紀。どっちも癖があって嫌いな人は絶対受け付けないだろうし,非常に似たようなタイプである(スウィート・ソウルも演歌も本質似ているところがあるというのはある種の人には暴論かもしれないが,何より「歌」が証明していると思うのだが)。

2012年4月12日記
☆ オハイオ州トレド生まれでデトロイトで活動してきたアニタ・ベイカーの28時の時の大出世作で,おそらく80年代のソウル・バラードの最高傑作の一つである。アニタのこのアルバム『ラプチャー(Rapture)』については,アマゾンのレビューが指摘しているように,現代に至るソウル・ディーヴァの基本形を作り上げたと言って良いと思う。それは70年代的スウィート・ソウルにビートと力強さを加味し,ディジタル処理を暗黙の前提にした「ニュー・ニューソウル」だった。この点ではアニタとホイットニー・ヒューストンの役割は非常に大きかった。それは例えば英国のソウル・シーンがシャーデーに代表的なように70年代型のスウィート・ソウルをよりソフィスティケイトしたアップデートを試みた事とは対照的でもあった。

Sweet Love(Anita Baker / Louis A. Johnson / Gary Bias)



☆ 豪華なイントロは甘ったるい70年型ソウル・バラードを思い起こさせる(例えばフィリー・ソウルのように)が,スウィートと言うよりは迫力すら感じさせるアニタの熱情的なヴォーカルは,この曲をクリーミィにする代わりに力強く生き生きとした作品にしていく。それこそが,80年代型のソウル・ディーヴァとしての彼女の立ち位置でもあった。アルバムは翌年(1987)のグラミーで最優秀R&B女性シンガー,この曲は最優秀R&B作品に選ばれている。

2015年12月25日記
☆ アニタ・ベイカーの1986年のブレイクは,60年代のアレサ(アリーサ・フランクリン),70~80年代のチャカ・カーンの継承者という印象が強い。それは強力なライヴァルとしてのサラブレット,ホイットニー・ヒューストンや革新者としてのジャネット・ジャクソンら実に好敵手の揃った時代でもあった。アニタは今の分類ではクワイエット・ストームのはしりのように位置付けられているが,このヴォーカルを聴いてクワイエット・ストームはちょっと気の毒な気がする。クワイエット・ストームがハンチクな音楽だと貶しているのではなく,アニタはどう考えたってアリーサやチャカの系譜に連なるソウル・レディに他ならないからだ。

☆ 例えばアドゥ(シャーデー)をクワイエット・ストームの先駆というのなら納得できる。別にこれはブラック・ミュージックの十八番(おはこ)だった訳じゃなく,例えばスウィング・アウト・シスターのコリーン・ドリュリーだって(特にセカンド・アルバムからの路線では)クワイエット・ストームの本流にいると思う。アニタは確かに80年代のよりソフィスティケイテッドされたスウィート・ソウルの路線に沿ってはいたが,それはたまたまその時代が要請したからに過ぎない(陽水や清志郎がフォークのフォーマットで世に出てきたようなもの)。アニタの本質はやっぱストレートなソウル・シンガーなのだと思う。

☆ それにしても,いつ見ても面白い振付だ。多分本人がエモーションを自然に表現しているだけなのだろう。『ラプチャー』で第一線に躍り出た時の彼女はアラサーだったが,このパフォーマンスはなかなか可愛く感じる(^∇^)。

PS.後で思ったのだけれど,ランディ・クロフォード(クルセイダーズをバックに「ストリート・ライフ」を歌っている)の方がよほどクワイエット・ストームに先行しているなと。

2017年4月14日追記
☆ 上に書いたことで書きたいことは大抵書いているが(笑),アニタが20年早く生まれたら(彼女にも下積み時代があったので)アリーサ・フランクリンの好敵手になっただろう(70年代のダイアナ・ロスに対するグラディス・ナイトのように),当然のことながら,10年早かったらチャカ(カーン)の好敵手だっただろう。ではリアルタイムでは?間違いなくホイットニー・ヒューストンやジャネット・ジャクソンなのだが,若い二人と比較するより音楽的傾向ならやはりシャーデー・アドゥになるのだろうな。

☆ アニタにとってクワイエット・ストームという「時代的な評価」は,ドナ・サマーにとっての「ディスコ」と同じく,ミュージシャンとしての栄光とその限界を刻印したもののようにも感じる。しかし上のパフォーマンスを見れば分かるように彼女は音楽の神様に使える歌姫という名の巫女なのである。恋人同士の体温を超えた何か神々しいものがあり,そこに見えるものの本質は,一種の陶酔の中に身を委ねる彼女は,確かに音楽の神様に選ばれた歌姫の姿であった。



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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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