2017-05

「Another Star」 (スティーヴィー・ワンダー 1977年8月) その2



キー・オブ・ライフキー・オブ・ライフ
(2012/09/19)
スティーヴィー・ワンダー

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Another Star (S.Wonder)

Personel
Bobbi Humphrey - Flute
George Benson - Guitar & Background Vocals
Hank Redd - Alto Saxophone
Raymond Maldonado - Trumpet
Trevor Laurence - Tenor Saxophone
Steve Madaio - Trumpet
Nathan Alford, Jr. - Percussion
Carmello Hungria Garcia - Timbales
All Other Instruments Stevie Wonder
Josie James - Background Vocals

2008年4月5日
☆ 1976~7年を代表する,というより70年代の黒人音楽を代表する歴史的名盤『Songs In The Key of Life』から3枚目のシングルとして,1977年9月にリリースされたが,アルバム自体が売れ過ぎてしまったせいか,悲しいほどヒットしなかった(Top40在位4週,最高位32位)スティーヴィー・ワンダーのシングル。以前訳詩を試みたので(2007年10月25日),今日はレビューだけ書く。

☆ スティーヴィー・ワンダーの功績はたくさんある。まず名前の通り "Little Stevie Wonder" の時代から,ショウビズと戦いながら,確りと自分の音楽世界を問うてきたこと。特に70年代は「ニュー・ソウル」の旗手として,強いメッセージ性と優れた音楽性を共存させた奇跡のような作品を(ベリー・ゴーディとマネジメント上では戦いながら^^;)作り続けたこと。そしてマーティン・ルーサー・キング牧師の誕生日をナショナル・ホリデイにする運動の先頭に立ったこと。彼は自分の出自を意識しながら,名声やレコードセールスを使って,積極的にアフリカン・アメリカンのコミュニティにコミットし,その成果を還元してきた。今で言えば「一人CSR」みたいなものだ。

☆ しかし,そういった社会運動家としての功績は米国内でのことであり,日本では「ディスコ=不良の音楽」などという愚にもつかない偏見が罷り通っていた時代に,最高レベルの黒人音楽をわかりやすく広めるという功績を残したのが,70年代のスティーヴィーだったと思う。それは,80年代になって黒人音楽が「ブラック・コンテンポラリー」の名の下に定着し,やがて優秀なフォロワー達を90年代以降の邦楽の世界に輩出させることになる。スティーヴィーはそうしたポピュラー化の功績を先導した。彼の音楽がその扉をこじ開けたことで,その他のたくさんのミュージシャンが正当な評価の機会を得たのだと思う。

☆ ではそんなスティーヴィーに死角は無かったのか?実は決定的な要素があった。その音楽は素晴らしいのだが,ヴォーカルは普通なのだ。普通という言い方は彼には気の毒かもしれないが,マーヴィン・ゲイ,スモーキー・ロビンソン,ダイアナ・ロスはもちろんのこと,例えばダニー・ハザウエイ,フィリップ・ベイリー,ライオネル・リッチーなど彼より優れたヴォーカリストは山ほどいた。この曲を聴いても良く分かるが,スティーヴィーのヴォーカルは意外にもシャウトするほど伸びていく。強いて言えばその「強いヴォーカル」がヴォーカリストとしてのスティーヴィー・ワンダーの魅力である。反面,聴き込んでいくとその単調さに気付くかもしれない。どれだけ聴いても飽きることのないマーヴィンのシルク・ヴォイスと比較するのは酷な話だが。

☆ だが言うまでもなく,それを補って余りあるのが彼の曲作りの才だ。この曲「Another Star」は,「サルソウル(=サルサ+ソウル)」という当時の流行を取り入れた作品だが,一番の特徴は「リズムが歌っている」ところにある。ポリリズムを刻む様々なパーカッションの「音の鮮やかな」こと。イントロからハッキリ見える打楽器としてのピアノ(メロディとリズムを同時に紡いでいる),それどころか,リズムギターはもちろん,管楽器やコーラスも「音とリズム」の両方で彩りを添えている。ここには,ディジタル以降の音楽の持つ「リズムがメロディを圧倒する」音ではなく,「リズムとメロディが相互に影響を与えながら一つに溶け合っていく」という音楽の理想形が見える。ディジタル音楽の最大の弱点は「音が塗りつぶされてしまう」ことだと思うのだが,アナログ・ミュージックにそれが無いのは,人間という「ゆらぐ」ものが実際に音を出しているから,その音が微妙にゆらいでいるからなのかもしれない。もちろんこのことは,この曲の演奏がいい加減だということではなく,明らかに当時としては圧倒的に進んでいた。一つ一つの音やリズムが「この場所にあるべき位置」に収まっていながら,ライブ感を全く失っていない。とんでもなく凄い演奏だと思う。

☆ このアルバムはレコード(アナログ・ディスク時代)の各面(当時は12インチ×2+8インチ×1という変則盤で,CD化後の曲順(Disc-1=LP-A,B,E面,Disc-2=LP-C,D,F面)は「間違って」いる。)の一部がノン・ストップになっていて,この曲も前の曲「As」からタイムレスで続いている。2曲合わせると楽に15分を超える大作だが,実際この2曲は「蝶結びのリボン」のようにペアにするのが相応しい気がする。「As」もこの曲もリフが延々と続くのだが,「As」が後半のメロディを続けるのに対し,この曲はイントロのメロディがキー・メロディとして,曲の土台となって流れていく。大滝(詠一)さんが良く言う「早いリズムの上に載せて朗々と歌う」の典型みたいな作品である。80年代のディスコだったら,当然この2曲がペアになった「45回転の12インチ盤」が出ていただろう。そういう意味でも「早過ぎた作品」であり,いくらカットしてもこれだけの超大作はラジオ局からは敬遠されただろう。ヒットしなかった最大の理由はそこ(オン・エア率が低かったこと)にあるのは間違いない。

☆ しかしこの作品は,例えば久保田利伸の初期の代表曲「You were mine」などに引用されているように,80年代以降のブラック・ミュージックやその優秀なフォロワー達に強い影響を与えており,たかが数週のスマッシュ・ヒットなんて言葉で片付けてはならないのである。今聴いても素晴らしい作品だと思う。

【追記】
☆ 非常に重要なことを書き漏らしていたので追記する。この曲のパターンを最初に本格的に導入した(ヒット)曲は,サザンオールスターズのデビュー曲「勝手にシンドバッド」だ。桑田の歌詞の速さに惑わされずに曲の構成をよく聴けば解ると思う。


2012年1月28日 付記
☆ この曲は『Songs In The Key Of Life』からの3枚目のシングルとしてカットされたが,さほど大きなヒットにはなっていない(Billboard Hot100 最高32位)。当時のメガヒットアルバムとしてはイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』,ピーター・フランプトン『カムズ・アライブ』そして翌年のフリートウッド・マック『噂』がある。イーグルスとマックはシングルも全てヒットしていた。この曲のヒットが小さかったのは曲が長すぎたからだということは間違いない。こういうタイプの曲の場合パート1/パート2にすることはよくある方法だが,彼ははその方法は取らずシングルヴァージョンは5分17秒となっている。

Single Edit(5:17) Reached No. 29 in the UK Charts 1977.



☆ 当時はディスコの絶頂期だったが,彼は4拍のディスコビートを使う代わりにパーカッションを多用したポリリズムに乗せて朗々と歌っている。それでもディスコ向けの曲ではあったようでビルボードのディスコチャートでは最高位2位を記録している。またアルバムとしての『キー・オブ・ライフ』(LP)でも「As(永遠の誓い)」からの流れで,12インチサイドの最後(D面)を飾る重要な曲でもある。

2013年4月9日 付記
☆ スティーヴィー・ワンダーの『Songs In The Key Of Life』からのサード・シングル。この超大作(LP2枚+4曲入りEP=全21曲)のD面は「As(7:08)」とこの曲(8:08)という大曲が2つ入っていて,どちらもシングル・カットされた。アルバムが大ヒットした割にチャート・アクションは高くない。シングル・エディットしていたが,ワンフレーズを展開する曲なのでエアプレイに乗せるには長過ぎたのが大ヒットしなかった(最高位:米32位)理由かもしれない。

☆ チョッと泣けてくるほどピュアな歌詩だと思う。


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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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