2017-09

恋の断捨離



「ニートな午後3時」 (作詩:三浦徳子/作曲:小田裕一郎/編曲:大村雅朗)


↑1981年2月5日リリース(7A0049 SEE・SAW/CANYON)
シングルヴァージョンかなと思ったけど,やっぱりアルバムヴァージョンっぽい(^^;)

☆ なぜかこのYouTubeのジャケ写はこの曲ではなく,その次のシングル「倖せにボンソワール Bonsoir L'amour」だけど,この10年ほどに数回出た彼女のベスト盤にはどちらのジャケットも使われていて,みき姐のフォトジェニックぶりが印象に残ってしまう。

☆ 結果から言えば気の毒な歌である。作詩はデビュー盤からの縁がある三浦徳子で作曲は松田聖子に書いた作品で注目株だった小田裕一郎,編曲はこれも彼女とは(同時に松田聖子とも)縁の深い大村雅朗。資生堂のタイアップを得てこの時代なら外しようがなかった(80年「不思議なピーチパイ」(竹内まりや),82年「い・け・な・い ルージュマジック」(坂本龍一+忌野清志郎)と前後の年の同時期に出た大ヒットを見てほしい)。しかしセールス的にはアッコ(矢野顕子)が軽やかに歌うテクノポップ「春咲小紅」に惨敗。チャンスが暗転したことの影響は結果としては致命的だったと書かざるを得ない。とても残念なことだが。

☆ さらに気の毒なことに,この言葉と同じ発音を持つ略語をイギリスから仕入れて喧伝した東大教授(現任,当時は助教授)が,2004年頃から村上龍のJ.M.M.などで発言しまくってそれが2ちゃんねるなどに定着。この曲のタイトルに対するスティグマ(悪しき烙印)となってしまった。本来なら出世曲となるべき曲をこんな形で凌辱され気の毒としか言いようがないのである。だけどここまで書いてきたことは,この曲とは何の関係もない。だからここから後がこの曲に関する本当の話である。

☆ この曲,基本的にはポップスなんだけれど,大村雅朗のアレンジはディスコの範囲にあるとはいえ,それはファンキーというよりファンクそのものだ。ものすごくスムーズなBPM(=Beat Per Minute)に三浦徳子も歌詩を書きこんでおり,みき姐はそれをタイプライターのキーを叩き込むように歌っている。つまりそうとうテクニカルで立て込んだ曲なのだ(この曲をカラオケで歌うとしてAメロのブレスをどこでどの程度入れるか考えてみてほしい。あるいはフックのところでビブラートを利かせた後のブレッシングのことを)。比較しても仕様がないのだが「春咲小紅」は作詩は「ほぼ日」の糸井重里,作曲はアッコちゃん本人で,編曲がymoymoつまりY.M.O.,これはアッコがY.M.O.のワールドツアーのサポートメンバーのキーパーソンだったことを思えばものすごく強力なスタッフだと言えた。そして彼女の天然ふわふわ感がテクノのアレンジでポンポンと跳ね上がって実に気持ちの良いテクノ・ポップに仕上がっている。

☆ テクノに対してディスコ/ファンクは,やはり(この時代としては)一歩遅れている感覚は否定しえない。だから曲自体の比較は勝負ありなので止めておくべきだろう。それを別にしてこの歌のテクニカルな難易度の高さは,デビューして二度目の冬が過ぎるころの歌手としては相当な上出来だと言わざるを得ない。ちなみに個人的に春系列の化粧品ソングの頂点は「君は薔薇より美しい」だと思う(過去に何回か触れてきた)。

☆ Neatという言葉で思い出すのは,ザ・ダムドのファーストアルバムの1曲目でなければこの曲であるが(爆),三浦徳子がこの言葉に込めた意味は何だろう?当然オファー元は化粧品会社であるから,「美」ということは通奏低音として要求される。それではこの作品のストーリィからどういう「美」を表すかと言えば「変化」であり「過去との決別」である。彼女(三浦)が意識したかどうかは別として「真夜中のドア」のテーマである「あの頃に対する思い」が,ここでは主人公が変わっていくため整理されるべき「過去」として意識されている(それも「真夜中のドア」に対してずっと短い期間の中で)。

☆ ぼくは三浦徳子の書く「ニート(Neat)」は断捨離のようなものではないかと思っている。無くしかけた恋の記憶をを未練として引きずるのではなく,「歩道に花束」を「まき散ら」すように整理して捨て去ることで「私は,変わる。」ことをこの言葉に含意させているのではないかと思う。それは未練を残す男に対して「私は(そこに)いない」と告げることに何の躊躇いもない(ここには心理の相克があって,みき姐はそれを意識してわざと抑えて歌っている)ことでもわかるだろう。三浦の歌詩でいえば,”私はなぜか「私はいない」と答えたの” と書いている。なぜかは「躊躇い」ではあるが,結論は「私はいない」で間違いない。そんな彼女は中途半端な男の思いを断ち切ってさっさと生まれ変わるからShe's Just Neat(断捨離してスッキリと小奇麗になる。言い換えれば髪をスパッとショートに変えるあの感覚)なのである。

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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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