2017-08

「スピーチ・バルーン」 (大滝詠一 1981年3月21日) Reissue



Original issued 2013.03.12

A LONG VACATION 30th EditionA LONG VACATION 30th Edition
(2011/03/21)
大滝詠一

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☆ 春の別れというとこの曲を思い出す。『ア・ロング・バケーション』が夏のアルバムと言い切れないのは,これと「さらばシベリア鉄道」の歌詩があるからでもある。

Reissue 2056.06.13

☆ 松本隆が『ア・ロング・バケーション』に残した作品は「FUN×4」を除いては全てトーチ・ソングである。にもかかわらずこの作品が支持されたのは永井博のイラストと湯村輝彦のパターンを模したジャケット(実際にその後,あのデザインの紙袋(ビニールカバー付)が市販されている)とA面,特にオープニング「君は天然色」のインパクトが強かったからだろう。両者を並べるとこのアルバムのコピー「BREEZEが心の中を通り抜ける」の通りになってしまうからだ。以前示したように「君は天然色」の血脈はザ・ビーチ・ボーイズ「素敵じゃないか」に届くと思うが,この曲も『ペット・サウンズ』の劈頭を飾る曲である。アルバムの1曲目というのはこのように作品全体にマジックをかける効果があり,コンセプト・アルバムでなくとも何となく全体を聴き通してしまうのはひとえに1曲目の功績であると思う。

☆ しかし曲調と関係なくこのアルバムがトーチ・ソングの集積であるのは(典型は確かに最後を飾る「さらばシベリア鉄道」だけど),松本の個人的な事情(Wikipediaのこのアルバムの項参照)もあるだろうが,意図せざる狙いのようなものがあったかもしれない。楽しい曲がメジャーコードで悲しい曲がマイナーコードというのは,どこの国のポピュラーソングでも大差無いと思うが,そういうスタンダードな考え方に対する多少の抵抗心をこの作品からは感じさせられる(それについてはおいおい示していこうと思う)。



☆ Wikipediaのこの曲の解説で触れている番組は,まだ全国に4局しか民間FM放送が無かった時代,土曜の正午から放送していた番組のことだ。Wikiではこれが番組タイトルと記しているが,記憶に間違いがなければ番組名は別にあったような気がしていて「スピーチ・バルーン」はその後半にあったトーク・コーナーだったと思う(どなたか82年頃のFM各誌をお持ちの方,お知らせください)。放送の中で記憶に残っているのは,82年にジョン・ベルーシ(1949.01.24~1982.03.05)が亡くなった直ぐ後,このコーナーで彼のことが話題になっていた(たまたまその時この番組を聴いていた)時だった。

☆ 「スピーチ・バルーン」には「どうしようもない別れ」がある。それは松本の作品で言えば太田裕美の「木綿のハンカチーフ」に通底するものがある。太田裕美の出世曲は,主人公の都会に出ていく恋人が「元恋人」に変わっていく様を膨大な手紙の往復(をあれだけの長さに縮め,なおもあれだけの言葉数を残した)に描いて1970年代を代表するトーチソングのひとつになったが,この曲ではそういう「別れ」を明らかに予感させる情景が淡々と語られている。

☆ ようつべのコメントでも多くの人が指摘している「ヘッドライトのパッシング」の行(くだり)は,実はそういう心象風景ではなく,主人公(「冬の港」と自嘲する「残された主人公」)の諦念が吹っ切れるための象徴なのかもしれない。仮にヘッドライトに(もしかしたらまだデッキに佇んで「くれている」かもしれない)彼女の顔が一瞬でも映ったとしても「泣いているのか」(それは彼の希望でありホンネでもある)どうか「分かる術はない」のだから。このリリカルさは「もののあはれ」であり,極めて日本的な歌詩だと思う。

☆ 「スピーチ・バルーン」の血脈はどこに流れたか。たぶんそれは言うまでもなく「ペパーミント・ブルー」だろう。『イーチ・タイム』もまた「銀色のジェット」や「レイクサイドストーリー」があるけれど,個人的には「ペパーミント・ブルー」を置いて他には無いと思っている。


PS.子供の頃から漫画雑誌は理髪店でよく読んでいたが,吹き出しを「スピーチ・バルーン」と呼ぶことを知ったのは,この曲を何度も聴いた後のことだった。よく聴けば歌詩でちゃんとそう歌っているのにね。
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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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