2017-08

 「Jazzy Night」(松原みき Album :1980年9月21日/Single:1981年12月5日)






☆ これはsunny1600vrさんが2008/11/25 にアップロードしたもの。作成者コメントは「松原みきさんの「Jazzy Night」、そのアルバム版とシングル版のミックスです。ステレオ再生できたなら、左がアルバム版、右がシングル版です。バッキングはほぼ同じですが、歌い方と終わり近くの歌詞がちょっとだけ違います。」とある。

Album Version(左チャンネル)
作詞:三浦徳子/作曲:林哲司/編曲:林哲司(3:47)
PERSONEL
.富樫春生(keyboards)、難波弘之(keyboards)、岡沢茂(bass)、林立夫(drums)、今剛(E. guitar)、斎藤ノブ(percussion)、数原晋(trumpet)、岸義和(trumpet)、新井英治(trombone)、ジェイク・H・コンセプション(A. sax)

Single Version(右チャンネル)
☆ YouTubeの解説にあるとおり,詩を少し変え,歌だけ入れ直しているヴァージョンと推定。YouTubeのwhatanelegantladyさんの指摘には説得力がある(後述)。シングルカットは最後の方で一音だけ(意識的に)トーンを変え,コーダが7秒弱早いように思う。

☆ この時期の彼女の作品は何となく「ふらつき感」があった。元々ニュー・ミュージックという制約の中で歌手を始めた彼女だったが,素養にジャズやソウルがあることはあまり表面に出していなかった。当時のシーンを見れば,例えばソウル的な部分が出せた例は渡辺真知子だし,もう少しフェミニンな場所には門あさ美がいたし,(本人の意志と裏腹に)もっとアイドル的な場所には石川優子や竹内まりや,EPOがいた。だからといって沢田聖子みたいにフォークに寄り添う線は最初から無い訳で,場所を確保するのが難しかったのだと思う(同じ悩みはとみたゆう子なんかにもあった筈)。でなければ旧作2曲でシングルにするという典型的急場しのぎは無かったんじゃないかと思う。

☆ 今さら考えても無駄なことであるが,女性歌手でこういうシングルが出る時は結構ヤバい場合がある。典型的には歌手の方から「煮詰まったので(精神的にも肉体的にも疲れてしまったので)少しお休みをいただきます」的な話が出てくる場合だ(強いて名を挙げないが70年代のトップ・アイドル歌手に頻出したケース)。でも彼女の場合そういう形跡はない。何というかプロデュースの側の迷いがそのまま作品に出ている感じなのだ。

☆ 三浦徳子が書いた「Jazzy」という言葉には,歌詩にも1か所さりげなく出てくるが,明らかに「ブルー」という感覚がある。蔭とか,翳とか。オリジナルが収録されているセカンド・アルバム『Who Are You?』はどちらかと言うとニュー・ミュージックのフィールドに「クセ球を投げ込みたかった」感(例えば「夕焼けの時間です」)はあるけれど,結果的に混ざってしまった直球的な作品(「Rainy Day Woman」やこの曲)の方が記憶に残る作品だった。その作品集の中に置けば「Jazzy Night」は端正な作品で,You Tubeでwhatanelegantladyさんの指摘する「アルバムバージョンは気だるく歌っているので好きではありません」という感想は,最初に書いたブルーという感覚を彼女が意識的に表現したからだろう。当然シングルにする場合(しかも歌を入れ直している),もっとインパクトのあるというか,この曲の場合ならコントラストを強めた歌い方になる訳で,両者の違いはそういうところにあるのではないかと思う。



「うたまっぷ」って,どんだけ使えないサイトになってしまったのやらorz...

☆ みき姐の今回のベスト&レアのレア曲にマンハッタン・トランスファーが元ネタの曲があって,どうせ歌うなら本家を歌えばいいと思いながらコンサートに行くと,彼女もそう思っていたのか,「トワイライト・トーン」をセット・リストの中に入れていた(-∀-)。

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「10カラット・ラブ」 (松原みき 1981年4月21日=アルバムリリース)


-CUPID--CUPID-
2,571円
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☆ 『―Cupid―』は,松原みきを「ニュー・ミュージック」からどうやって離陸させるかという1980~81年にはいささか難問だった問題に対する回答としてのアルバムだった。この当時,こんなアプローチで先行していたのはジャズ畑の笠井紀美子くらいだったのではないか。どちらも答えは「フュージョン」だったわけだが,その時点で10年のキャリアがあり,押しも押されぬ日本の代表的女性ジャズシンガーのひとりだった笠井がハービー・ハンコックの元に飛び込んでむしろ引っ掻き回すほどの活躍を見せた(アルバム『バタフライ(with ハービー・ハンコック)』1979年)のに対し,足掛け3年目の松原は物怖じせずに西海岸のフュージョン・グループDr.STRUTと渡りあっている。この辺はソロデビュー盤の半分をシカゴで録った1976年の山下達郎に相通ずる部分をも感じてしまう。

「10カラット・ラブ」 (作詩:三浦徳子 / 作曲:亀井登志夫 / 編曲:大村雅朗)



☆ 一聴すれば解るが,これはファンク・ジャズ・ヴォーカルである。それも,もの凄くファンキーでソウルフルなヴォーカルをぶつけている。さっきの笠井紀美子との類比で言えば,笠井がハービー・ハンコックの音を再度バラバラにして自分の音を再構築してみせたのに対して,松原は物怖じすることなく堂々とファンキーなフュージョン・サウンドと互角に渡り合っている。この時点で松原みきは軽々と「ニュー・ミュージック」の壁を飛び越えているのだが,残念なことにこの「音」は当時の「ニュー・ミュージック」のシーンには数年分早過ぎた。好きじゃない言い方だがアーティスティックであり過ぎたのだと思う。それはいささか前衛風のアルバム・ジャケットやら同世代の女流作詩家達と張り合う中で,やや先鋭化してしまった三浦徳子の詩とも相まって,アイドルに近い「王道」を彼女に望んでいた時代のニーズとの「ずれ」を逆に見せてしまったのかもしれない。

PERSONEL
Dr.STRUT David Woodford (sax.)
Claude Pepper (drums)
Peter Freinberger (bass)
Tim Weston (guitar)
Kevin Bassinson (keyboards)
Everett Bryson (percussion)

数原晋 (trumpet), 岸義和 (trumpet), 小林正弘 (trumpet), 新井英治 (trombone), 中沢忠孝 (trombone), 井口秀夫 (trombone), 杉本勝行 (trombone), 向井滋春 (trombone solo)



This column is dedicated to Mr. Tencarara (Author of 永遠の歌姫~松原みきを想う~テンキャララの後悔日誌)

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「Misty」 (Erroll Garner Covered by 松原みき 1984年10月21日=アルバムリリース)


初出:2010年8月9日
Miki Matsubara (Nov.28 1959 ~ Oct.7 2004)

BLUE EYESBLUE EYES
(2009/01/21)
松原みき

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「Misty」(From the Album『Blue Eyes』Released Oct.21 1984)



2017年5月26日付記
☆ 「ミスティ」はアメリカのジャズ・ピアニスト エロール・ガーナー(1923.06.15~1977.01.02)が1954年12月に発表したアルバム『Contrasts(コントラスツ)』に収録された作品。これにジョニーバークが詩をつけてジョニー・マティスが1959年9月にシングルとして発表し全米最高12位を記録するヒットとなり,やがてジャズのスタンダードの1曲となったもの。Wikipedia英語版にあるこの曲のカヴァーを見るとエラ(フィッツジェラルド)やサラ(ヴォーン)はこのシングルが出た59年に早くもカヴァーしており,その他にもアンディ・ウイリアムズやフランク・シナトラなど錚々たる面々が載っている。みき姐の名前は残念ながら無かったが(誰か編集乞う^^;),なぜか川上つよしと彼のムードメーカーズ(フィーチャリング 中納良恵 [EGO-WRAPPIN'] の2010年10月27日リリース『moodsteady』からのカヴァーが載っている(苦笑)。

☆ 「ミスティ」と出だしの3音が全く同じ音という曲がスタンダードにある。「ひき潮(Ebb Tide)」。この曲の英語版Wikipediaではこう記されている。

> The first three notes are identical to the first three notes of the Erroll Garner song "Misty" (1954).

☆ これは昔々「サウンド・イン S」でもネタに使っていたのを見たことがある(あの時はハネケン(羽田健太郎)さんがピアノ弾いてなかったかな?)。「ひき潮」は1953年にロバート・マクスウエルの曲にカール・シグマンが詩を書いたもので,最初はインスト版(下のYouTube参照。どこかで聞いたことないですか?)が出たが,有名なヴァージョンは1965年のライチャス・ブラザーズ盤である。

Ebb Tide(ひき潮) (Frank Chacksfield & His Orchestra 1953年)



Ebb Tide(ひき潮) (The Righteous Brothers 1965年)



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恋の断捨離



「ニートな午後3時」 (作詩:三浦徳子/作曲:小田裕一郎/編曲:大村雅朗)


↑1981年2月5日リリース(7A0049 SEE・SAW/CANYON)
シングルヴァージョンかなと思ったけど,やっぱりアルバムヴァージョンっぽい(^^;)

☆ なぜかこのYouTubeのジャケ写はこの曲ではなく,その次のシングル「倖せにボンソワール Bonsoir L'amour」だけど,この10年ほどに数回出た彼女のベスト盤にはどちらのジャケットも使われていて,みき姐のフォトジェニックぶりが印象に残ってしまう。

☆ 結果から言えば気の毒な歌である。作詩はデビュー盤からの縁がある三浦徳子で作曲は松田聖子に書いた作品で注目株だった小田裕一郎,編曲はこれも彼女とは(同時に松田聖子とも)縁の深い大村雅朗。資生堂のタイアップを得てこの時代なら外しようがなかった(80年「不思議なピーチパイ」(竹内まりや),82年「い・け・な・い ルージュマジック」(坂本龍一+忌野清志郎)と前後の年の同時期に出た大ヒットを見てほしい)。しかしセールス的にはアッコ(矢野顕子)が軽やかに歌うテクノポップ「春咲小紅」に惨敗。チャンスが暗転したことの影響は結果としては致命的だったと書かざるを得ない。とても残念なことだが。

☆ さらに気の毒なことに,この言葉と同じ発音を持つ略語をイギリスから仕入れて喧伝した東大教授(現任,当時は助教授)が,2004年頃から村上龍のJ.M.M.などで発言しまくってそれが2ちゃんねるなどに定着。この曲のタイトルに対するスティグマ(悪しき烙印)となってしまった。本来なら出世曲となるべき曲をこんな形で凌辱され気の毒としか言いようがないのである。だけどここまで書いてきたことは,この曲とは何の関係もない。だからここから後がこの曲に関する本当の話である。

☆ この曲,基本的にはポップスなんだけれど,大村雅朗のアレンジはディスコの範囲にあるとはいえ,それはファンキーというよりファンクそのものだ。ものすごくスムーズなBPM(=Beat Per Minute)に三浦徳子も歌詩を書きこんでおり,みき姐はそれをタイプライターのキーを叩き込むように歌っている。つまりそうとうテクニカルで立て込んだ曲なのだ(この曲をカラオケで歌うとしてAメロのブレスをどこでどの程度入れるか考えてみてほしい。あるいはフックのところでビブラートを利かせた後のブレッシングのことを)。比較しても仕様がないのだが「春咲小紅」は作詩は「ほぼ日」の糸井重里,作曲はアッコちゃん本人で,編曲がymoymoつまりY.M.O.,これはアッコがY.M.O.のワールドツアーのサポートメンバーのキーパーソンだったことを思えばものすごく強力なスタッフだと言えた。そして彼女の天然ふわふわ感がテクノのアレンジでポンポンと跳ね上がって実に気持ちの良いテクノ・ポップに仕上がっている。

☆ テクノに対してディスコ/ファンクは,やはり(この時代としては)一歩遅れている感覚は否定しえない。だから曲自体の比較は勝負ありなので止めておくべきだろう。それを別にしてこの歌のテクニカルな難易度の高さは,デビューして二度目の冬が過ぎるころの歌手としては相当な上出来だと言わざるを得ない。ちなみに個人的に春系列の化粧品ソングの頂点は「君は薔薇より美しい」だと思う(過去に何回か触れてきた)。

☆ Neatという言葉で思い出すのは,ザ・ダムドのファーストアルバムの1曲目でなければこの曲であるが(爆),三浦徳子がこの言葉に込めた意味は何だろう?当然オファー元は化粧品会社であるから,「美」ということは通奏低音として要求される。それではこの作品のストーリィからどういう「美」を表すかと言えば「変化」であり「過去との決別」である。彼女(三浦)が意識したかどうかは別として「真夜中のドア」のテーマである「あの頃に対する思い」が,ここでは主人公が変わっていくため整理されるべき「過去」として意識されている(それも「真夜中のドア」に対してずっと短い期間の中で)。

☆ ぼくは三浦徳子の書く「ニート(Neat)」は断捨離のようなものではないかと思っている。無くしかけた恋の記憶をを未練として引きずるのではなく,「歩道に花束」を「まき散ら」すように整理して捨て去ることで「私は,変わる。」ことをこの言葉に含意させているのではないかと思う。それは未練を残す男に対して「私は(そこに)いない」と告げることに何の躊躇いもない(ここには心理の相克があって,みき姐はそれを意識してわざと抑えて歌っている)ことでもわかるだろう。三浦の歌詩でいえば,”私はなぜか「私はいない」と答えたの” と書いている。なぜかは「躊躇い」ではあるが,結論は「私はいない」で間違いない。そんな彼女は中途半端な男の思いを断ち切ってさっさと生まれ変わるからShe's Just Neat(断捨離してスッキリと小奇麗になる。言い換えれば髪をスパッとショートに変えるあの感覚)なのである。

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変わるのは、自分から。 「ハロー・トゥデイ〜Hello Today」 (松原みき 1980年)



☆ 1980年。昭和55年。何かの区切りになる年だったのか,そうではなかったのか。日本のポピュラー音楽は2年前にゲーム・チェンジして,歌謡曲がニュー・ミュージックに取って代わられようとしていた。それはベル・カーブを辿るようなピンク・レディー旋風の終焉や山口百恵のファイナル・ステージへの進化が予感させていた。もっとも歌謡曲の側が偶然見つけた切り札も前後して登場する。それによってゲーム・チェンジはポピュラー音楽自体の拡散(分散化)の道を辿る。

☆ ニュー・ミュージックが中村東洋の許から商業的に剥ぎ取られたように,インディーズの走りである東京や福岡のロック・ムーヴメントもいちおうの「商業パッケージ」に絡め取られていった。その商業の枠から離れたところから,後年までしぶとく生き残るミュージシャン(一部は作家になったりしているが)も出てくるが,そういうのもまた別の話である。

☆ 「ハロー・トゥデイ〜Hello Today」は松原みきの3枚目のシングル。と言っても良く意味の分からない2曲連続リリースのデビューから考えると実質的にはセカンド・シングルに等しいかもしれない。かなり早いディスコ・ビートで進行するのは,彼女の「勢い」にポイントを置きたかったからだと思う。ただそれは一歩間違うとディスコ・ビートの欠点である単調さに繋がってしまう。ぐいぐい攻めているはずが,空振りになってしまうこともある。Aメロで畳み込むように歌い,Bメロ(フック)でそれを料理してまたAメロに返すのだが,やはりどこか単調さは抜けない。

☆ 三浦徳子の歌詩も,どこか小さな苛立ちを感じさせる。主人公が東京だとして女友達のいるマドリッドは,確かに1980年では相当な距離感がある(スペインが王政復古したのは1975年)。リーガ・エスパニョーラもサクラダ・ファミリアも知る人ぞ知る存在だった頃のスペインのマドリッドである。作詞家が地名を選ぶ時に彼我の距離の差を強調するなら,それは意識の差を暗喩している。そこにいる彼女には「別の人生」があり,ここにいる主人公には「別の人生」を選ぶことも出来ず,ここに留まっているという感覚(孤独感とも読める)が色濃くある。

☆ 主人公が「何か言ってね」と依存するのは誰だろう?彼女は白い傘を「思い切り」開いて "恋人が欲しい" と「ふと,思う」のである。その暗喩には何より無人島や砂漠に置き去りにされている感があるのだが,一方で動き出す勇気のない自分が鏡に映っているだけなのかもしれない。そう考えていくと「何か言う」べき者は自分自身ではないかとも思われるのだ。そこでタイトルに戻る。「ハロー・トゥデイ〜Hello Today」。朝起きて,鏡を見て,自分に「おはよう」を言う。自由であり独立しているが,何かが足りない。(自分を)支えるものがない。都会は孤独であり,その孤独も自分が選んでいる。自分を変えなければいけないと気づいた友達は今はスペインにいる。きっかけは誰も与えてくれないが,自分が動き出さないと何も変わらない。そういう情景がある。彼女は半分以上気が付いている。そして彼女が見ている鏡の中に映っている彼女自身が出す結論はただひとつ。「変わるのは、自分から。」




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「音楽っていいですね。そこには常に理屈や論理を超えた物語があり、その物語と結びついた優しい個人的背景がある。この世界に音楽というものがなかったら、僕らの人生は(つまり、いつ白骨になってもおかしくない僕らの人生)もっともっと耐え難いものになっていたはずだ。」(引用元:村上春樹「ポケット・トランジスタ」(『村上ラジオ』2001年6月8日所収))

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